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2010.08.20

配偶者控除を基礎控除に一本化すべきである

私はずっと「配偶者控除を廃止すべきだ」と考えていたが、最近、考えを少し変えた。

配偶者控除は基礎控除に一本化すべきである。

配偶者控除とは、配偶者が一定以下の収入(現行:103万円以下)のとき、所得から38万円が控除されるものである。

夫婦の状況により、次のようになっている。
(※「主婦」を「主夫」に置き換え、夫と妻を入れ替えても同じ)

■専業主婦世帯の税金控除
 夫:基礎控除(38万) + 配偶者控除(38万)
 妻:所得なし(=控除なし)

■パート主婦世帯の税金控除
 夫:基礎控除(38万) + 配偶者控除(38万)
 妻:基礎控除(38万)

■共働き夫婦の税金控除
 夫:基礎控除(38万)
 妻:基礎控除(38万)

■単身者の税金控除
 基礎控除(38万)

(図)

Koujo

これを見て「あれ? 一つの世帯だけ他とちょっとルールが違ってないか?」と思った方がいるだろう。

そう、「パート主婦世帯」だけ、他と異質なのだ。
「専業主婦世帯」「共働き世帯」「単身者世帯」は、いずれも
一人につき38万円の控除
のルールが適用されている。
単身者なら一人分の控除、夫婦なら二人分の控除。

ところが「パート主婦世帯」は、夫婦二人で「基礎控除×2+配偶者控除」で、3人分の控除適用がされている。
これは不公正ではないだろうか?

こういう不合理をやめて、「一人につき基礎控除を一つ」を公平に適用すべきである。

このことに反対する合理的根拠はあるだろうか?

考えられる反対理由:その1
「妻がパートで働くのは生活が苦しいからだ…だから余分に控除を適用してもいいでしょ」

妻がパートだからその夫婦の生活が苦しいとは限らない。妻はパートでも夫は大企業正社員で年収1,000万円ということもある。
生活が苦しくても妻が健康上の理由などで働けず専業主婦(収入なし)ということもある。
夫婦ともに非正規労働者でめいっぱい働いてどちらも年収200万円以下で配偶者控除なしということもある。
パートの職にしか就けない単身者・母子世帯・父子世帯の人は、その収入で生活を支えるのだからもっと生活が苦しい。

考えられる反対理由:その2
「パートの賃金が低いのが問題。賃金アップ、パートと正社員の格差解消が先だ」

パートと正社員の格差解消が必要なのはそのとおりだが、それをもって「夫の扶養家族になっているケースだけ控除を余分に適用」を正当化することはできない。
パート・非正規で働く単身者や母子世帯・父子世帯の人もいる。その人たちに配偶者控除はない。
第一、配偶者控除の存在が「パートの待遇改善を阻んでいる」ことも事実である。パートで働く人自身が「収入アップ(103万円を超える)を望まない」んだから。収入を上げないほうが得する制度が「賃金アップ、格差解消を促す」わけないではないか。

   *   *   *

配偶者控除への批判は、とかく「専業主婦批判」のように捉えられてきた。
「妻が働かないですむのは、夫が高収入だからだ。そんな「金持ち世帯」に控除する必要はない」
「働かない主婦はフリーライダー(タダ乗り)」
といった案配。
それに対しては「主婦の働き、価値を認めろ」と反論が出る。

しかし、配偶者控除の真の問題点は、「専業主婦の価値」論ではないのである。
妻は年収103万円以下で働くのがお得ですよという制度にこそ問題があるのだ。
働いていないことを問題にするのでなく、働き方を制限(自主規制)することを問題にすべきだと思う。

一方、配偶者控除はある種の「福祉肩代わり」の面がある。
健康上などの理由で市場労働を行うことが難しい(かといって入院したり障害者手帳を持つほどでない)場合、その人を扶養する配偶者に税控除して少しばかり支援するという。
こうした現実がある以上、ただ配偶者控除を廃止するだけでは、少数とはいえ弱者に犠牲を強いるものになってしまう。
だから、働けない理由があろうがなかろうが、無収入の人に一人分の基礎控除を適用して良いのではないかと思うようになった。

だが、現に働いているパート主婦世帯の「二重に控除適用」は改め、公正な税負担に変えるべきである。
そして、パート・非正規労働者の厚生年金加入を進め、待遇改善を行うことを望む。
「収入を抑えるほうが得、働かないほうが得」という構造をなくすことが大事だ。
(生活保護などの弱者支援を「モラルハザードになる」と言う人がいるが、配偶者控除等のために収入を抑えるほうが得という考え方のほうがよほどモラルハザードだ)

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コメント

妻は年収103万円以下で働くのがお得ですよという制度は、仰るとおり夫婦関係における根底的な問題の一つに私も思ってきました。それでは、この制度設計は、どのような法の趣旨や沿革の流れのなかで生まれてきた考え方なのでしょうか。

 いわゆる夫が保護する「妻の身分」というイギリス慣習法から生まれてきた考え方で、その政治思想史をさかのぼると、夫の妻に対する優越や決定権を認める根拠は近代的な市民社会の形成を構想したジョン・ロックの『政府二論(市民政府論)』に表現されていたことを、以前読んで、エェッと驚かされたことがあります。

   いわく「夫と妻とは、ただ一つの共通の関心をもっているとはいえ、その理解力も違っているので、時にはまた違った意志をもつのも已むを得まい。ところで最後の決定権すなわち支配権というものはどこかに置かれていなければならないので、自然それは、より有能で、より強い、男の方の手に置かれるのである。しかしながら、これは彼らに共通の利害関係のある事物と財産とに及ぶだけである」(鵜飼信成訳/ロック著『市民政府論』岩波文庫,84~85頁)

 この考え方は、近代日本の明治民法の妻の無能力者規定(1947年改正まで既婚の妻は自分名義の銀行口座を持てなかった。→結婚の罠)に影響し、戦後の税制規定に残存している、という根深く根強いものだったのですね…

投稿: TAMTA | 2010.08.23 07時35分

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