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2010.10.15

鈴木亘「保育所の規制緩和」--なんでわざわざややこしいことを

文藝春秋2010年11月号「待機児童80万人の元凶 公立保育所の給料が高すぎる--鈴木亘(学習院大学教授)」
について、続き。

鈴木氏は、待機児童解消のためには保育所を規制緩和し、自由価格・自由競争にすべきだと言う。

その伏線として、

・認可保育所の保育料があまりに安い
・公立保育所に投入される税金があまりに高い

ことを、東京都のいくつかの区・市のデータを挙げて述べている。

例えば、武蔵野市や区部では、公立保育所のゼロ歳児一人あたりに月額50万円前後の保育運営費(人件費や管理費・事業費等、保育にかかる費用)がかかっている。対して、親が負担する保育料はずっと安く、最高でも57,100円(武蔵野市)。

こんなにアンバランスな認可保育をやっているからお金が他に回らず、待機児童解消もできないのだ、そこで、規制緩和、自由価格、自由競争だ、と。
しかし、自由価格・自由競争では低所得者や障害児など弱者が保育所を利用できなくなるおそれがある。
それについては、別途、個人に直接補助金を渡すのが良い。

というのが鈴木氏の主張。

気をつけたいのは、上記の「50万円」とか保育料とかは、東京区部・市の富裕自治体の話だということ。
全国どこでもゼロ歳児に50万円かけているわけではない。そして、この額は一部は国が出す補助金だが、大半は自治体が出すお金。東京区部では9割以上が自治体分。
東京区部などは保育に金をかけられることで知られており、近隣の他県他市の人は「東京は別格だから」と言っている。

鈴木氏も同誌で書いているが、国が算定している基準保育料はけっして安くない。
3歳未満:上限10万4,000円  3歳以上:上限10万1,000円

保育を実際に運営するのは国でなく各自治体(区市町村)。保育料も自治体でそれぞれ決めている。
自治体は上の基準保育料を上限としてそれより安い保育料にし、不足分は自治体が補っている。安くしないと親の負担が大変だからだ。
中でも東京の富裕自治体の保育料減額・税金投入はきわだって多い。その一番極端なのがゼロ歳児の税金50万円:保育料5万数千円というわけ。

こういうきわだった例を基準にして、国の保育制度を「規制緩和せよ」は妥当でないと思う。
規制緩和で企業が参入しやすいようにとのことだが、保育に企業が参入できる地域は限られている。人口が少なく待機児童もいない町に企業が保育事業参入するわけがない。
しかし、国の制度として自由価格・自由競争となったら、企業が来ない町でもあおりを喰ってしまうのではないか。
行政が保育に十分な税金を投入できず(財源がないから)、さりとて民間でも担い手がなく、えらく乏しい保育水準になってしまわないか、と懸念する。
ちょうど、三位一体の改革により、
・義務教育費の国庫負担割合を減らした→地方の教員の非正規化が進んだ
・保育費の一般財源化→自治体は使い道が自由に→保育予算縮小
のように。

待機児童が多いのは東京なのだから、待機児童対策の規制緩和を東京基準でやっていいじゃないか。待機児童のいない地方は別の政策を独自にやればいい。
という理屈もあるが、

いや、それだったら、東京で独自にやれば?国の制度いじらなくても。

鈴木氏や、多くの方が驚く「安すぎる保育料」「高すぎる税金投入」は、国基準でなく東京が独自にやってきたことだから、東京の区・市が変えればいいんじゃないの? 中・高所得者の保育料を上げ、低所得者はそのまま。税金投入は公立の分を減らして待機児童対策に多く回す。こうした策は今の制度のままで可能でしょう。

わざわざ国の制度として自由価格・自由競争にして保育料全体の料金上昇を誘い、低所得者等は別途に手間をかけて補助金支給で支援。
なんでそんなややこしいことしないといけないのかわからない。

自由価格・自由競争による効率化といってもね…。保育の何を効率化するのだか。給料の高い公立正規保育士を駆逐できるから? 正規で何が悪いの? 大学教授を非常勤パート教員ばかりにすれば効率化して私学助成金が削減できると言われたらそうするの?
効率の良い保育所って…運営費の安い保育所かしら。コストの安いバイト保育者が大半で入れ替わりが激しくて担当がすぐ変わってそのたび「ウチの子はアレルギーで云々」を説明して…親と子には非効率なんだけど(てか効率以前の問題が)。経営悪化で突然撤退されたら目も当てられないし。

マイナスもいろいろありそうな自由価格・自由競争をいったん経た上で待機児童を減らす、という回り道をするより、自治体が直に待機児童を減らす策を考えるほうが「効率的」ではあるまいかと。

注)ネット上ではこの「公立保育所・ゼロ歳児の[保育料:税金投入額]」が、なぜか[2万円:50万円]と誤って流布している。
2万円というのは「鈴木教授のお子さん(3歳以上児)の保育料」であって、ゼロ歳児の保育料ではない
ゼロ歳児であれば、最高は57,100円(武蔵野市)、区部でも50,000円は超えているかと。東京以外では6万超もある。福岡市は64,000円。
こういうインパクトのある数値は、ネット内外でどんどんデフォルメされて、ついには
「日本中どこでも」「認可(公立も私立も)保育所は」「子ども一人に(ゼロ歳でも5歳でも)」「保育料2万円で税金が50万円かかっている」
てな話になりかねないんで困ったもんである。
税金50万円とは鈴木氏の計算。なぜこの数値になるのかよくわからないので今後調べる予定。

保育にかかる費用、税金については、こちらのブログ「きょうも歩く」を参照していただきたい。

  *  *  *

どうも鈴木氏の文章には違和感があってしょうがない(ミネラルウォーターのせいか)。

鈴木氏は「政府の規制改革会議において保育分野の専門委員を長年務めた」と書いている。
…その割には、
数カ月前、自分のお子さんが認可保育所に入り、「保育料があまりに安い」と驚いたりしている。

保育分野の専門委員を長年務めながら、認可保育料の相場も知らなかったんか?自分が経験するまで。

まるで専門でない私でさえ、認可保育所の保育料がどれくらいか、自分の子どもが入る前から知ってたけど。当時はインターネットもなかったが、今ならネットですぐ調べられるだろう。
専門委員に就く前から調べて、そのときに「保育料やっすーい!!」って驚いておけよと。

話をおもしろくするために、本当はずっと前から知っていたけど「入ってから驚いた」ことにしてるのかもしれないが。

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